【勝手に主題歌】curtain call

是非curtain callを聴きながらお読みください。

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「好き、かもしれない」

 

君が複雑そうな顔をして「多分、私も」なんて呟いた。

保険に保険をかけたように酷く曖昧に関係を始めてしまった俺たちだけど、あのなんとも格好が付かないあの告白の日から数年が経った。

 

1ヶ月。隣に歩く君との距離が縮まって、触れたら壊れてしまいそうな小ささ、細さに狼狽した。

3ヶ月。遠慮というものがお互い無くなり、君との心の距離が近付くのに比例して衝突が起きるようになった。

12ヶ月。二人でのしっくりくる距離感を見つけて、毎日くだらないことで笑い合った。

15ヶ月。抱きしめる時間より君の顔を見つめる時間が増えた。君の笑顔をみるとほっとした。

18ヶ月。安心感が粗雑さと甘えにすり替わった。

23ヶ月。君の好意にあぐらをかいた。君の気持ちは自分が一番分かっていると自負していた。

 

ぞんざいな扱いをしてしまったのは無論承知の上だ。

でも、好きだった。

君の笑顔も、髪も、声も、考え方も、爪の先だってまるごと好きだった。

どんなものにも敵わない価値があった。

 

24ヶ月。君に「別れよう」と言われた。

 

それはもうごねた。

もしかしたら、この安心感を手放したくなかったのかもしれない。

君を失うことが安定感を損なうことに思えて、怖かったのかもしれない。

 

26ヶ月目の今。

あの曖昧な告白をしてしまった場所で、一人、空を見上げている。

 

思い出が走馬燈のように駆け巡った。

どうしたらこんな結末にならなかったのだろう。

いつの間にか、空がぼやけてきらきらしているように見えた。

零れてしまわないようにそっと目を閉じる。

 

暫くして、君にお礼を伝えていないことに気付いて立ち上がった。

ひとつの物語の幕引きだった。